第
1章では,オシロスコープの原理と使い方,およびファンクション・ジェネレータの使い方について説明する.実験の途中や予習・復習時に良く読んで理解を深めてほしい.実際の実験の手順については第2章以降に説明がある.オシロスコープは時間的に変動する電圧信号をブラウン管上に表示する装置である.オシロスコープの原理を理解するには,ブラウン管の構造と,掃引と同期という仕組みについて知っておく必要がある.
ブラウン管はテレビ受像器にも使われており,日常生活で目にすることの多い装置である.(電波で送られてくる映像はどのような仕組みで画面上に表示されているのだろうか?ここを読んだ後で考えてみよう.)図
1に示したのがブラウン管の基本的な構造である.ブラウン管の中は真空に保たれており,その中で電子を加速して蛍光面に衝突させ,表示したい点を光らせることができる.図の
1番左のKはカソード(cathode 陰極)と呼ばれる部品である.カソードはヒーターに電流を流すことにより熱せられ,電子が飛び出してくる(熱電子という).カソードとアノード(anode 陽極,図1のA1,A2,A3)の間には高い電圧がかけられており,それにより熱電子は加速される.加速された熱電子は,垂直偏向電極Vと水平偏向電極Hの間を通り,図の右側にある蛍光面Sに衝突する.蛍光面で電子の運動エネルギーは光に変換され,電子の当たった点は発光する.蛍光面に到達する電子の数は,グリッドGに加える電位によって制御することができる.つまり,蛍光面の明るさ(
intensity,輝度)を調整することができる.また,3つのアノードのうち,A2の電位を変えて,A1を通った電子が,蛍光面上で一点に集まるよう調節することができる(focus,焦点の調整).垂直偏向電極に電圧を加えると,その間を通る電子は垂直方向に曲げられるので,蛍光面にぶつかる電子のy座標が変化する.同様に,水平偏向電極に電圧を加えることにより,x座標を変化させることができる.すなわち,垂直・水平偏向電極の電圧により,蛍光面上の発光する場所(ブラウン管の明るくなる点,輝点の位置)が変化する.
問題1
本実験で使用するオシロスコープの加速電圧は約2000ボルトである.2000ボルトの電位差により加速された電子の速さを求めよ.(ヒント:加速電圧をとすると電子の得るエネルギーはである.但し,は電子の持つ電荷であり
1.6x10-19Cである.また,電子の質量は9.1x10-31kgである.)さて,上で説明したようなブラウン管を使って,時間的に変化する信号波形を観測するにはどうしたらよいだろうか?それを実現するのが,掃引と同期という仕組みである.
信号の例として,図
2(a)のような正弦波を考えてみよう.この図は縦軸が信号の電圧で,横軸が時間である.信号の電圧を適当に増幅または減衰して,垂直偏向電極Vに加えると,輝点の垂直位置(y座標)は,信号電圧に比例して変化する.次に,水平方向(x座標)を時間軸にするためには,水平偏向電極Hに,時間に比例した電圧を加えればよい.つまり,輝点の水平方向の位置は,時間の経過とともに一定の速度で,左から右へ動くようにする.輝点が右端にきてしまったら,水平偏向電極の電圧を元の値に戻して輝点が左端にくるようにし,また一定の割合で電圧を増加させる.具体的には,図2(b)に示した,のこぎりの歯のような電圧を水平偏向電極に加えればよい.このようにして,水平方向を時間軸に,垂直方向を電圧にして,信号の波形をブラウン管の蛍光面に表示することができる.これを掃引(sweep)という.水平方向の電圧が増加する割合,つまり,のこぎり波の傾きにより,蛍光面上での横方向1目盛りあたりの時間が変化する.また,縦方向1目盛りあたりの電圧は,垂直偏向電極に加える電圧をどのくらい増幅・減衰するかで決まる.今度は,図
2(a)のような周期的な信号を観測したときに,蛍光面上の波形を静止させる方法を考えよう.つまり,掃引を繰り返したときに,表示される波形がいつも同じになるようにするにはどうしたらよいだろうか?これを実現するのが同期(synchronization)という仕組みである.そのためには,図
2に示すように,適当なトリガーレベル(trigger level, triggerは銃の引き金という意味がある)を設定し,信号の電圧値が上昇していきトリガーレベルに達した瞬間に,のこぎり波をスタートさせればよい.輝点が右端に達したら,いったん表示を止め(電子の流れを遮断する),水平方向の電圧を元に戻す.そして,信号の電圧をモニターし,再びトリガーレベルに達したら,表示を開始すると同時にのこぎり波をスタートする.このようにして,信号と同期して表示を行い,蛍光面上の波形を静止させることができる.本実験で用いるオシロスコープでは
,トリガーレベルに達した瞬間に電圧が上昇している(傾きが正)場合だけでなく,下降している(傾きが負)場合を選んで表示をスタートさせることもできる.また,観測している信号以外のものに同期して表示することもできる.オシロスコープのパネル面を図3に示す.初めて見ると多くのつまみや端子があり戸惑うかもしれないが
,慣れてくれば一つ一つの役割や調整方法が理解できるようになるはずである.つまみや端子等の機能は以下の通りである.最初から全てを理解するのは難しいかもしれないので
,実験中に分からなくなったら,以下を参照して理解を深めてほしい.(ここは省略)
目的
オシロスコープの原理を理解し,操作できるようになる.装置
オシロスコーププローブ
1本(プローブはオシロスコープへの信号入力に用いる.先端部分には曲がった針金が付いていて物をはさむことができる.オレンジ色のスイッチは減衰器の切り替え用で,
以下の手順に従って行う.
@
G
INTENSITY 時計方向にいっぱいに回すH
CHl INPUT 何も接続されていないことを確認するJ
AC-GND-DC GND(まん中)にするN
VAR,PULL´ 5 GAlN 灰色のつまみは押し込んだ状態にして,時計方向(右)に回しきっておく.R
POSITION 中央にする(切れ目があるところが上になるように回す) MODE CH1 TIME/DIV 0.2ms/DIV(つまみに付いている4つの出っぱりのうち,一番大きいのがほぼ真上になるようにする) SWP VAR CAL方向(右)に回しきっておく. POSITION 中央にする SOURCE INT INT TRIG CH1 TRIG LEVEL 中央にする TRIG MODE AUTO目的
発振器の信号をオシロスコープで観測できるようになる.装置
オシロスコープ発振器
BNCケーブル
準備
オシロスコープは2.1節を参考に,電源を入れる(POWERがOFFになっていることを確認後コンセントを差し込み,その後でPOWERをONにする).J
AC-GND-DC DCL
VOLTS/DIV 5V/DIV MODE CH1 TIME/DIV 0.2ms/DIV SOURCE INT INT TRIG CH1 TRIG MODE AUTOA
RANGE 1K(ボタンを押す)B
FUNCTION 正弦波(一番右のボタン)C
ATT 0dB(PUSH OFF)F
AMPLITUDE 最大(右いっぱいに回す)I
FREQUENCY 1.0程度J
SWEEP EXT(PUSH OFF)1人が出題者,もう1人が解答者になる.出題者は発振器を適当に設定し,解答者はオシロスコープを使って波形を読み取るというのが基本的なルールである.出題者と解答者は次のことを守ることにする.
出題者:
解答者:発振器の設定を見てはいけない.オシロスコープを使って正弦波を表示し,振幅と周波数を読み取る.
出題者は,解答者の求めた振幅と周波数が正しいかチェックすること.出題者と解答者の役割を交代し,何度かゲームを行おう.ルールは2人の合意があれば変更しても良い.例えば,解答までの時間を測る,出題者はオシロスコープの設定をでたらめにしておく,設定の制限を緩める等.ゲームの経過は(双方の)ノートに記録すること.
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