サブポアソン光とは何か
 光の強度、(光子数)を計測する時のことを考えてみる。 一回の測定にかかる時間をτとしよう。

このとき、光子数nの統計的な分布

で、表されるような光子の分布をポアソン分布と言って、このような光をポアソン光と言う。 このポアソン分布の特徴は光子数nの分散(ゆらぎ) が 平均光子数 に等しいということである。

このポアソン分布を基準としてこれよりも分散が大きい、つまり平均光子数よりも分散が大きい分布を スーパーポアソン分布、逆に分散が小さい分布をサブポアソン分布と言う。 本研究でサブポアソン光を発生させるのは光を信号として扱う際に“低雑音”の光がほしいという 要請からである。(このことについては後に詳しく述べる。) したがって、もう少し雑音といった観点からポアソン光、サブポアソン光などを考えてみる。 それにあたってファノ因子Wというものを導入しておこう。 光の強さ を信号として扱うときゆらぎ は 雑音となり信号のやり取りを妨害する。 よって光の強さと雑音の大きさの比が重要になってくる。この比をとったものがファノ因子である。

このファノ因子Wを用いて光を区別してみる。

雑音が大きい光から小さい光へと上から順に並んでいる。 重要なのはレーザーなどの古典光ではW=1よりも雑音を押さえることが 不可能であることだ。この古典光の限界の光はポアソン光と呼ばれ、光子の 分布はポアソン分布をしている。さらに雑音を押さえた光はサブポアソン光と呼ばれて いて、光子の分布はサブポアソン分布をしている。

  まとめ
サブポアソン光とは古典光の限界を超えた低雑音の光である。

サブポアソン光の必要性
信号を伝送するときに、どんなキャリアにどんな形で信号をのせるかは、さまざまな 方法があるが、ここでは、信号を光子や電子の粒子数nにエンコードして伝送すること を考えてみる。応用されるものとしては 光を使って信号をやりとりする際に問題となってくるのが雑音である。 もう少し詳しく言うと信号と雑音の比(S/N)が問題となる。

ここで、Wは前に述べたファノ因子である。 これをみると光の強度が強い範囲では少々雑音 が大きくても信号対雑音比に 影響が少ないのであるが強度が弱い範囲では雑音の影響がどうしても出てきてしまう。 ファノ因子で見てみると強度 が弱い範囲でS/N比を保つためにはどうしてもW<1 つまり、サブポアソン光が必要になってくる。

  まとめ
 サブポアソン光は光強度の弱いところ(また、応用上の問題から  高周波領域)で特に必要とされる。

サブポアソン光の発生方法
 では、いよいよ本題の発生方法に入ろう。 サブポアソン光の発生方法の基本的な発想は「雑音の少ない電流を作り出し その電流(電子)をLED(発光ダイオード:Light-Emitting-Diode)で 光(光子)に変換することで雑音の少ない光を発生させる」ことである。 図を見たほうが簡単だ。

LEDは電流を流すと光る素子である。電子を光子に変換する素子と 言ってもよいだろう。これに低雑音化された電流を流すことにより 低雑音化された光子の流れ、すなわちサブポアソン光が得られる。  ここで電子がLEDに注入されたにもかかわらず、発光しない場合、 光子のゆらぎ、つまり雑音が発生することになる。このLEDの発光効率が 実際の実験で重要になる。  また、注入される電子のファノ因子と発生する光子のファノ因子の間には 次のような関係が成り立つことを示しておく。

ここでηは上で述べたLEDの発光効率である。 以上により、低雑音化された電流を作り出すことが、まず重要になるのであるが 実はLEDと理想的な定電圧電源(雑音がない電源)の間に高抵抗体を 直列にはさむだけで良いことが分かっている。   それでは、実際に使用した実験器具の配置図を見てみよう。

実験配置図の説明をしよう。 まず、先に述べたように電流を低雑音化するためにLEDと定電圧電源の 間には高抵抗体が直列にはさんである。低雑音化された電流はLEDに注入され光に変換される。 この光はPD(フォトダイオード)によって再び電流に変換された後、アンプによって増幅され、 スペクトラムアナライザで周波数に分解され、ノイズパワー(雑音の大きさ)が測定される。 そのデータはPCに集計される。  ここで重要なことは、電源−抵抗−LEDの回路が2つあることである。 図に示してあるように1つはポアソン光の発生のため、もう1つはサブポアソン光 の発生のための回路である。なぜ、ポアソン光を発生する回路が必要なのであろうか。 それは、この実験が「ポアソン光に比べて」どれだけ雑音が押さえられた光を発生 できるかを試みる実験だからである。つまり、ポアソン光という、比較の基準が 必要なのである。では、同じ回路からポアソン光とサブポアソン光が得られるのは なぜだろうか。前に出てきた式をもう一度見てほしい。

@のポアソン光の回路では発光効率ηを極端に悪く設定している。(η≪1) すると上の式から発生する光はのポアソン光になることがわかる。 それに比べてAの回路はできるだけ発光効率を良くした。今回の実験では0.21 程度であった。これにより、十分に電流を低雑音化すれば のサブポアソン光が発生できることが分かる。

実験結果
まずは、直接ノイズパワーを見てみよう。

確かにポアソン光(黒)よりもサブポアソン光(青)のほうが雑音は 押さえられている。4箇所ほど変なピークが見られるがこれは、外部の電波 (ラジオなど)が回路に紛れ込んでしまったためと考えられる。 今後はこのノイズの除去もうまくやったほうが良いだろう。 このままではどの程度低雑音化されたのかわかりにくいので、アンプのノイズを 除き、ファノ因子を求めると次の図のようになった。

この図で、ラジオなどの電波の影響による、変なピークを除けば実験結果は次のように まとめることができる。
@. 低周波領域では確かにサブポアソン光が確認された
A. 高周波領域にいくほどファノ因子は1に漸近していった
  もう1つ、ファノ因子の図を見てみよう。

これによると、次の結果も成り立つ
B. 電流値が大きいほどファノ因子は小さくなる。

考察
 実験結果について、少し考えてみる。 まず、低周波領域ではサブポアソン光が確認されたが、高周波領域に近づくにつれ ポアソン光に漸近してしまうことについてだが、これはLEDの発光効率 が周波数 依存しているためである。次の図を見てもらいたい。

LEDに電子が注入されてから光子が発生するまでには一律な遅れ時間があり その後、発光効率は時間τに対して単調増加関数になる。この時間というのは 実験でいう、周波数の逆数のことと考えて差し支えない。 つまり低周波数領域(τ≫1)では、発光効率がよいので

の式によるとサブポアソン光が発生しやすいことが分かる。 逆に高周波領域(τ≪1)では発光効率が悪いので必然的にポアソン光に漸近して いくのが分かる。

   次に電流値が大きいほうが雑音が押さえられる(良いサブポアソン光が発生する) ことについてだが、これも発光効率が関係している。次の図を見てもらいたい。

この図から電流値が大きいほど発光効率は良くなることが分かる。 (30mAをこえたところから減少に転じているのは熱のためであると考えられる。) これから電流値が大きいほど良いサブポアソン光が発生することも理解できる。

まとめ
 本研究では確かにサブポアソン光の発生が確認された。しかしながら、まだまだ改良点や、 できることを上げるときりがない。今後私の実験を継いでくれる人に期待しつつ、いくつかそれらを 挙げてみたい。  まず、本文中でも述べたが、ラジオなどの一般電波をうまく遮断して気分良く実験してもらいたい。 回路をうまく組めばきっとできると思う。(私も1度だけできた) それから、今回の実験ではスペクトラムアナライザを制御するのにVisual Basicを使ってデータの 集計時の操作を完全自動化する予定であったが、問題が起こり、それは実現化していない。 どちらもサブポアソン光の発生という物理のテーマとは関係ないが特に後者はコンピュータに 詳しくなりたい人には面白い問題であると思う。  物理的な問題としてはより発光効率を上げ、より良いサブポアソン光を発生してもらいたい。 例えば、室温でなく、もっと温度を冷やして実験をすれば発光効率は上がるだろうし、LEDを変えて より高周波側でのサブポアソン光の発生に取り組むのも面白い。 いずれにしても、私の実験ではLEDは完全にブラックボックス化しており、ただの [電子⇒光子]の変換機として扱われている。LEDなど半導体の問題にもう少し 注力してみるのも面白いだろう。

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