Rb原子のボーズ・アインシュタイン凝縮のためのコンピュータ制御システム

The computer control system for Bose-Einstein Condensation of Rb atoms

平野研究室 96-041-021 坂野常俊

我々平野研究室は目下Rb原子によるボーズ・アインシュタイン凝縮生成の早期実現に向けて邁進している。

ボーズ・アインシュタイン凝縮生成を実現するにはレーザー光の強度や周波数、コイルに流す電流の調整、及び此れらの精密な時間調整を行うことが大前提とされる。上記の内容を手動で操作することは絶対不可能であり、我々はコンピュータの手を借りなければならない。

当研究室に於けるボーズ・アインシュタイン凝縮生成までの過程について簡単に記す。Fig.1のような二漕から成る独自の真空装置を組む。上漕では真空度が凡そtorr程であり、下漕では凡そ torr程である。原子の集まり易い比較的真空度の低い漕で衆多の原子を捕獲し、捕獲した原子を拡散のし難い超高真空漕へ送り込む為である。

先ず上漕に於いて、磁気光学トラップ(レーザーと磁場を巧みに利用して原子を冷却旁旁捕獲するという技術)により衆多の原子を冷却旁旁捕獲する。次に偏向勾配冷却を施して更に冷却する。そして原子集団を下漕へロードする。

下漕に於いては、先ず原子集団を磁気トラップという方法を用いて再捕獲する。次に此の磁気トラップ内の原子集団を磁場の曲率を上げて断熱圧縮させる。続いて磁気トラップに交流磁場を架けて、運動エネルギーが大きい原子を選択的に磁気トラップから逃がすことによって残留した原子集団を更に冷却させる。此れは一般に蒸発冷却と呼ばれている技術である。此処でボーズ・アインシュタイン凝縮が生成されている筈である。磁気トラップを一瞬切り、原子集団を拡散させて(Time-of-flight法と呼ばれる)、其の空間分布を吸収イメージング法と云われる技術を用いて確認する。

Fig.1

ボーズ・アインシュタイン凝縮生成には一方ならぬコンピュータの力を仰がねばならない。全ては紹介出来ないので主に私の担当するFig.1に於ける左斜め二重矢印の部分について解説する。因みにSSR(Solid State Relay),IGBTは極々簡便に云うとコイルを駆動させるスイッチである。AOM(Acousto-Optic Modulator),MS(Mechanical Shutter)とはレーザー光を通したり遮断したりする、此れも云わばスイッチの役割を果たす。

此れらの機器をコンピュータで制御しなければならないのは次に示す絶対必要条件がある為である。

  1. リアルタイム性
  2. 多くのTTL(Transistor Transistor Logic)処理
  3. 磁気トラップコイルからの絶縁

もう少し敷衍する。

まず@のリアルタイム性について。ボーズ・アインシュタイン凝縮生成には100μs以内の時間精度が必要である。使用するPCOSWindowsであるが、Windowsの限界は精精1ms程である。此れはFIFO(First-In First-Out)を搭載したTTL出力ボードを導入することによって解決する。

次にAについて。多くのTTL処理に加えて許多の出力電流を確保したい(換言すると出力インピーダンスを寡少にしたい)為アナログスイッチを利用する。これで最適な出力電流を手中に収める事ができる。

最後にBについて。磁気トラップコイルには最大300Aもの夥多の電流を流す。確り絶縁しなければ極めて危険である。無接点であるフォトカプラー内蔵のIGBTコントローラーを用いることで此の問題を解消することが出来る。

上記の@Aを踏まえて、出力電圧5V16channel TTL boxを製作した。MICRO SCIENCE社製の16bit FIFOメモリ付デジタル出力ボードMDO-252ATを使用した。回路図はFig.2に示す。単純明快な回路で、全く同じ回路が16あると考えて頂ければよい。手動操作も可能である。FIFOから電圧が架かると出力電圧は5Vとなり、電圧が架からなければ0Vである。ボードはMicrosoft Visual Basicで制御する。私は各々16chが指定したタイムチャート通りにTTL信号を発生させるというプログラムを作成した。其のタイムチャートは保存可能である。信号は10μs周期で制御出来る。

Fig.2

Bを踏まえてはIGBTコントローラーを製作した。三菱電機製CM400HA-24HというIGBTを、同じく三菱電機製M57962CLという専用のICを駆動して用いる。Fig.3に示す。上記のTTL boxに接続して使用する。此の機器には巨大電流を監視する電源モニターも付随させた。

Fig.3

現在は他のコンピュータ制御も含めて3台のPCを使用して、其其独立して作業を進めている。最終目標は命令1つでボーズ・アインシュタイン凝縮生成からイメージング画像の取り込み及び解析まで行うという壮大なシステムの完成にある。