Rb原子の磁気光学トラップ及び偏光勾配冷却

95041009 平野研究室 伊東 健一

気体原子に、±x,y,zの6方向から共鳴周波数よりもわずかに低い周波数のレーザー光をあてることによって原子を冷却することができる。(ドップラー冷却) この方法によって冷却された原子集団のことをoptical molasses(“光の糖蜜”)とよぶが、その寿命は短く、長時間狭い領域にとどめておくことはできない。冷却された原子集団を長時間狭い領域に多数とどめておく為に考え出されたのが磁気光学トラップである。

また、上記のドップラー冷却の原理では反跳エネルギーによる限界があるが、実際にはその冷却限界を破る結果が得られたことから新しい冷却のメカニズムが考えられた。この冷却のメカニズムは偏光勾配冷却と呼ばれ、偏光状態の違う光を互いに逆向きに照射することによって実現する。(磁場はかけない)

私の卒業研究の目的は実際にRb原子気体の磁気光学トラップを行い、その原子集団に偏光勾配冷却を施すことである。この研究は同研究室の並木君と共同で行っている。

磁気光学トラップは基本的に右図のような系で実現できる。レーザー光を±x,y,zの6方向から入射するのはドップラー冷却と同じだがこの場合、互いに逆向きの光は偏光が逆周りになっている。また互いに逆向きに電流を流したコイルの対を用いて四重極磁場をつくり、その中心がレーザーの交点になるようにしてある。

簡単のために仮想的な、基底状態がスピン、励起状態がスピンの原子を考える。またさらに簡単のためz軸上の1次元的なふるまいを考える。このコイルによる磁場はz=0付近では近似的にと表され、エネルギーのZeeman分裂はとなる。(左図)この原子にの方向から光、の方向から光を入射する。(周波数はの共鳴周波数より低くしておく。)するとの領域では光より光を多く吸収し、では逆のことが起こる。このことによって原子は原点に向かう輻射圧を感じてトラップが実現する。(光は角運動量保存則によりの遷移のみ起こる。)

x,y軸についても原点付近で磁場はとなっているのでこの原理は3次元でも成立する。実際に扱う原子の準位はこのように単純ではないが上準位の全角運動量が下準位よりも大きい遷移を用いればトラップを実現することができる。

 実際に実験を行うには、セルの中にRb気体をtorrのオーダーで満たし上図のようなコイルを巻き6方向から負に離調させたレーザーを入射させる。光を作るには

波長板を使えば良い。

 また、偏光勾配冷却は磁場を切ることによって自動的に行うことができる。

 残念ながらこの予稿を書いている時点(2月5日)で磁気光学トラップは完成していない。

現在はトラップに必要な真空系を準備しているところである。上記の真空度を達成するためにロータリーポンプとターボポンプ及びイオンポンプを使用する。トラップに必要なレーザーの周波数ロックシステムはほぼ完成しており、発表の日までには何とかトラップ及び偏光勾配冷却を行いたいと思っている。